海草藻場の炭素循環・堆積過程・食物網

 海草藻場は、陸上に生える草と同じような緑色の被子植物が浅い海の底を草原のようにおおっている生態系です。海草は強力な光合成能力を持ち、海水中から二酸化炭素を吸収することによって海洋酸性化をローカルに緩和する作用を有するほか、グローバル・スケールでは大気中の二酸化炭素の有力な吸収源になっていると考えられています。海草藻場はまた、その一次生産能力の高さと環境を複雑化する働きのため、多様な海洋生物に豊かな食物と住み場所を提供しています。
 しかし世界全体の藻場の分布はまだ完全に把握されておらず、その生態系機能の地域的な特性についても十分な比較研究が行われていません。特に海草藻場がその活発な物質生産を通して隣接する生態系や外洋域に及ぼしている影響については未解明な部分が多く、最近も熱帯性海草が隣接するサンゴ礁を細菌の感染から守っている可能性を示すアメリカの研究者による実験結果が Sicence 誌に発表されて話題を呼びました。
 私共は日本沿岸から東南アジア、オーストラリア東部にかけての海草藻場を研究対象として、炭素循環を中心とする生態系機能とそのメカニズムの解明を行って来ました。この研究は1996年頃から、私の研究室の教授であった小池勲夫氏を中心に始められ、断続的に20年近くも続いています。
 現在は、SATREPS プロジェクトの一環として海草藻場から外洋域に移出・系外隔離される有機炭素の動態に関する物理探査と地球化学的分析を組み合わせた現地調査(フィリピン大学の F.P. Siringan教授や八戸工業大学の田中義幸氏等との共同研究)、環境 DNA を利用した系外移出有機炭素の定量評価技術の開発(水産研究・教育機構の浜口昌巳氏や東京工業大学の中村隆志氏等との共同研究)、カキ養殖と関連したアマモ場生態系サービスの調査(水産研究・教育機構の堀正和氏を中心とした国際共同研究)を平行的に進めています。堆積物のコア(柱状試料)の採集とその堆積年代の評価においてはそれぞれ株式会社ジオアクトの安達社長と AORI の高解像度環境解析研究センターの皆さんのお世話になっています。

(写真上)タイ・アンダマン海沿岸の海草藻場の調査風景。
(写真中)海草藻場内での堆積物コア試料の採集。
(写真下)採集された長さ 1 m のコア試料(半分に割ったところ)


最終更新日:2019年3月31日