サンゴ礁の栄養塩収支・生物間相互作用・環境変動応答

 サンゴ礁は亜熱帯から熱帯にかけての沿岸域で、物理学的にも生態学的にも根幹的な役割を果たしている重要な生態系ですが、高温条件や pH の低下に対して概して脆弱であることから、地球温暖化や海洋酸性化等の地球環境変動によって大きな被害を受けることが懸念されています。またそれ以前にも、サンゴ礁生態系は漁業活動や陸域からの水質汚染などの影響を、文明史を通じて受け続けていて、現在では、高次捕食者を含めた健全なサンゴ礁の状態というのがどういうものであるか、その実例を観察することがほぼ不可能なほどになってしまっています。
 私共は主としてサンゴ礁生態系の栄養塩・有機物動態をテーマとして、その基礎的な定式化を進めるとともに、様々な人為的環境変化がサンゴ礁に及ぼす影響を物質循環と代謝活性の観点から調査しています。私共のサンゴ礁研究は、1996年に始まった東京大学大学院理学系研究科の茅根創教授が主宰するCRESTプロジェクトから開始され、その後、同じ茅根教授の主宰する新学術領域「サンゴ礁学」や、東京工業大学の灘岡和夫教授の主宰するSATREPSプロジェクト等を通して発展させて来ました。これまでは主に沖縄県石垣島周辺のサンゴ礁をフィールドとして、生態系レベルの栄養塩・有機物動態、外来性栄養塩負荷(地下水、大気降下物、養殖場排出負荷等)の物質循環への寄与、サンゴ−共生藻間の物質交換などをテーマに、現地調査と室内実験をベースとした基礎的な研究を進めて来ました。窒素循環研究を中心に、リンの収支や溶存有機炭素に関する調査も行われています。最近はこれに加えて、移植実験や屋外水槽実験による環境変動応答の研究も始めました。
 現在は、パラオの複雑な海洋環境に生育するサンゴ礁の物質代謝と多様性維持に調査(琉球大学の栗原晴子氏や東工大の中村隆志氏等との共同研究)、サンゴ礁の大規模白化予防・回復技術に関する研究(琉球大学の藤村弘行氏を中心とする環境研究総合推進費によるプロジェクト)、食物網を通しての基底資源動態とその環境変動応答に関する研究(東工大の灘岡和夫氏を中心とする科研費課題)、薄明帯サンゴの物質代謝と物理環境に関する現地調査(Alex Wyatt 氏を中心とする共同研究)を並行して行っています。

(写真上)石垣島北西部のサンゴ礁。
(写真中)移植実験のためのプロット設置作業風景と、移植用に採集したサンゴ。
(写真下)サンゴに対する海草の影響を調べるための屋外水槽実験。


最終更新日:2019年3月31日