本研究室の紹介
海洋無機化学分野は、観測船によるフィールド調査と様々な精密化学分析手法を活用し、海洋の化学的成り立ちと、大気・生物圏および地殻と相互作用を通して起こるその進化について、理解することを主な目標として研究を進めています。
研究のキーワード ・ 海洋化学 ・ 海洋物質循環 ・ 海水の化学分析
研究の概要
海水が塩辛いのは、海水中に塩化ナトリウムなど様々な塩が溶解しているためです。また、わずかですが海水は濁っており、これは生物体などに由来する細かい粒子が漂っているためです。このように海洋環境はさまざまな化学物質から構成されています。 一方で、海の表面と海底直上、太平洋と大西洋の海水を比べると、同じ海水と言えども、溶解している塩の割合や漂う粒子には違いが見られます。このような違いは、各物質が固有に持つ化学的性質、供給と除去の起こり方、さらに海洋内での物理学的・生物学的過程によって、巧みにコントロールされています。 私たち海洋無機化学分野では、海洋における物質循環について、大気圏・生物圏・岩石圏との相互作用を経て、どのように進化してきたのかも含め、総合的に理解することを目指しています。その上で、化石燃料による二酸化炭素の放出をはじめとする地球環境問題に対し、海洋がどのように反応するのか、どのような役割を果たしているのかについて解明しようとしています。
対象とするフィールド
太平洋やインド洋、日本海など地球表面の7割を覆う海洋すべてが研究フィールドです。 また、海底で起こる様々な現象にも興味を持ち調査しています。これまでに、中央海嶺や島弧・背弧海盆における海底での熱水活動、プレート沈み込み帯における冷湧水現象、沿岸域における海底地下水湧出現象の調査をしてきました。 さらに、海洋の物質循環と密接な関係を持つ大気も調査対象としており、大気-海洋の相互物質交換や大気環境問題にも興味を持って研究を進めています。
物質循環過程を解き明かす化学指標成分
私たちの分野では、海水や海底堆積物、海底湧出流体や大気などの化学組成や同位体組成の時空間分布を分析することで、物質循環過程の解明に取り組んでいます。 ○微量元素・・・・・遷移金属、希土類元素、貴金属類など ○溶存気体分子・・・O2、H2、CO2など ○安定同位体・・・・H、O、C、N、Nd、Ce、Pbなど ○放射性同位体・・・U/Th系列核種、14C、222Rnなど
分析化学を用いたアプローチ
私たちは観測だけでなく、高精度化学分析手法をはじめ、クリーンサンプリング手法、現場化学計測法など新しい技術の開発も行っています。 分析手法や試料採取法の開発はこれまで技術的な制約により観測できなかった化学組成や同位体組成の観測を可能にし、新たな化学指標を創出するため非常に重要であり、分析化学はフィールド観測とともに海洋化学の両輪であると言えます。
研究に用いる機器および装置
上記の研究について、私たちは白鳳丸や新青丸に乗船し、継続しています。この2つの学術研究船は、私たちにとって不可欠なライフラインです。研究船での試料採取や観測に活躍する機器を紹介します。
CTD-CMSは、通常の採水を行うシステムです。採水を行うと同時に海洋学上重要なパラメーター、即ち、深さ毎の温度・塩分のモニターを行います。採水器は独自の工夫を凝らし、周囲からの汚染が極めて低い採水を可能としています。汚染の危険が極めて高い海水中の鉄の定量にも成功しています。
Th-230、Ra-228などの低濃度の放射性核種や、Pu同位体比測定のような、大量の海水が必要な場合は大量採水器(四筒式)に頼ることになります。一筒の体積は約250リットルです。
海洋学の一翼を担う海洋無機化学
私たちは、他の化学成分や物理学・生物学・地学を用いたアプローチをしている本研究所内や他大学・他研究機関の研究者と連携し、観測調査やデータ解析を進めています。 さらに国際的には、海洋の総合的な地球化学研究にかかわる共同プロジェクト、たとえば GEOTRACES、SOLAS、 IMBER、 InterRidge、 LOICZ、 IODPなどと密接に協調しつつ、研究を進めています。
大気CO2が少なかった氷期の海
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