2018年7月23日から9月13日まで、ベーリング海にて観測を行った。私は、この大学に進学するまでに乗船した経験がなく、あっても観光船にしか乗ったことがなかった。ましてや、大型船に乗って約2ヶ月も海の上で過ごすことなど一度もなかった。だが、その「今まで経験してなかったこと」に好奇心が掻き立てられ、乗船することを決めた。
海上での生活は、陸上と大きく異なる点がいくつかある。例えば、陸上で生活する以上に節約、節水する必要があると言うことだ。今回の航海は50日以上も無寄港であったため、水を含むほとんどの物資は途中で補給されることがない。そのため、食糧不足や水不足が起こる可能性もあり、気の抜けない毎日を送っていた。中でも最も苦しんだことは、慣れない外国の料理と船の揺れである。始めのうちは、外国の料理を食べることに対し新鮮な気持ちを抱いていたが、徐々に慣れて当たり前のようになると、油中心の食事が苦手になった。そこに、船酔いが重なると気分が一層悪くなり、食べ物を口にすることすらままならなかった。実際、私は航海中に3日間連続で拒食状態となった。このような状況でも、船は進み観測は続いた。航海当時は、肉体的にも精神的にも苦痛なものがあったが、今考えるとそれも貴重な体験だったと思う。
この航海には、私のように乗船経験のない若者から何度もロシア船に乗っているベテランまで、様々な研究者が参加していた。乗船中、体調が優れているときは出来るだけ多くの研究者方から話を伺うようにしていた。自分の専門外にある知識や、各々が行っている研究について、多くのことを教えていただいて、自分にとってとても良い学びの場になりました。さらに、前述した船酔いや拒食状態のときも心配して声をかけてくださったり、酔い止めをくださったりして助けていただくことが多々あり、同乗者の方との関わり合いや助け合いがいかに大事かを実感した。
航海では、何事もなければ予め決めていた航路に沿って観測を行っていく。しかし、自然の中では何が起こるかわからない。高波や強風に遭うかもしれないし、霧や大雨が発生することもあるかもしれない。本航海もその例外ではなく、何度か航路の変更を強いられた。それでも、ほとんどの観測を行うことが出来たため、よい成果を持ち帰ることが出来た。
想像以上に過酷だったロシア船航海は、未熟な私を大きく成長させてくれた。人生の中でこれに勝る大きな出来事はない。座って待っているだけでは到底経験することのない長期航海に参加し、それを無事に乗り越えることが出来た。辛いことや苦しいこともあったが、その分達成感も感じられたし、面白かった。このような体験をさせていただいた皆様に心より感謝申し上げます。
しばらく乗船する予定はないが、いつかまた長期航海に参加したいと思う。(文:島崎智広)