我々の研究室では、地球を一つのシステムとしてとらえ、 同位体地球化学の側面から物質循環や地球環境の変遷を理解するため日々研究を行っています。 その一部をご紹介します。
地球には大気があります。この大気は、いつ、どのようにしてできたのでしょうか?
この普遍的な問題に取り組むため、我々はヘリウム同位体トレーサーを用いて検証しています。
ヘリウムは、化学的に不活性で、沈み込み帯でほとんどリサイクルしないことが知られています。
また、始原的な3Heと放射壊変から生成する4Heの2つの同位体を持つことから、
様々な元素と3Heの比をとることでマントルからの脱ガスモデルを推定することが可能です。
出展:Resing et al. (2011) Nature Geosciences
He同位体は、大気進化だけでなく、海洋の深層水循環を解明するためにも用いることができます。
それは、Heが不活性で、マントルと大気とで大きく異なる同位体組成を持つこと、
水の中で拡散しないなどの特性を示すためです。
海水のモニタリングや海底堆積物の採集のため、白鳳丸や淡青丸などの研究船に乗船することもあります。
炭素や硫黄といった軽元素がマントルを含めたグローバルなスケールでどのように循環しているかを調べています。
参考: Ooki et al. (2016)
Kagoshima et al. (2015)
西太平洋のプレート境界における天然ガスの起源
中央アメリカ・コスタリカの沈み込み帯における深部窒素循環
海底熱水に含まれる揮発性物質の起源:熱水性鉱石に閉じ込められた流体を分析することで、揮発性物質の地球深部循環を探る
マントルに至る硫黄のグローバル深部循環が明らかになった
火山噴火を調べるには、地震計や歪み計といった地球物理的観測が主であり、
火山ガスの化学分析など地球化学的な調査はあまり行われていません。
火山のマグマには特異的なヘリウムが含まれ、火山ガスや地下水などのヘリウムを調べることで、
火山噴火のメカニズムを調べています。
特に海面下にある海底火山は目に見えないため、火山周辺の海水の化学成分を調べることが重要です。
参考: Kagoshima et al. (2016):御嶽山
Sano et al. (2015):御嶽山
Roulleau et al. (2015):北海道火山
Roulleau et al. (2013):姶良カルデラ
海底火山活動を迅速に見つけて化学的に観測する
2014年御嶽山噴火に先立つ10年間のヘリウム異常
海底火山研究の新展開:トカラ列島周辺の浅海域で、大規模なガスプルームを伴う海底火山活動を洋上から音響測深・海洋化学観測によって確認
また、地震の観測も地震計による地球物理的観測が主であり、
地下水の化学分析など地球化学的な調査はあまり行われていません。
地震に関連した化学組成の変化を調べることで、地震発生のメカニズムを調べています。
参考: Sano et al. (2014):東北地方太平洋沖地震
2016年鳥取地震に先立つ地下水中の酸素同位体異常
熊本地震に伴う地下水中のヘリウム異常と地殻の歪み変化
東北沖地震に伴い深部流体が マントルから海溝までプレート境界を迅速に移動した
サンゴや有孔虫、二枚貝などの生物が作る炭酸カルシウムの硬組織(殻や骨格など)は、有望な古環境記録媒体です。
それは、炭酸カルシウムを構成する炭酸イオンや金属元素が海水から取り込まれているから。
Nano SIMSを用いた高解像度微量元素分析では、シャコガイに刻まれる日単位の変動史を復元することが可能です。
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参考: 地球最古の海洋堆積物から生命の痕跡を発見! 約40億年前の微生物による炭酸固定の証拠
二枚貝の化石から先史の日射量を推定 5千年前の日射量をおよそ3時間間隔で明らかに
シャコ貝殻のストロンチウム/カルシウム比は日射量の変動を記録する
私たちの太陽系は、どのようにして形成され、地球や火星などの惑星は、どのような環境進化をたどってきたのでしょう?
隕石には、太古の太陽系の進化史や、母天体(小惑星、火星、月など)での環境変動が記録されています。
隕石が持つ地球化学的情報・同位体情報を紐解くことで、太陽系諸天体の形成・進化史の解明に迫ります。
我々の研究室では、Nano SIMSによる微小領域の高精度分析を用いて、
火星や小惑星の環境進化史を調べています。
参考: Koike et al. (2014, 2016): 火星隕石
隕石の年代測定から液体の水が存在していた小惑星の形成時期を決定
Image credit:Jet Propulsion Laboratory (JPL), NASA
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