音読するとどちらも「かいそう」になるため、海草と海藻はよく混同されます。海苔、わかめ、昆布、ひじき、アオノリなどの「かいそう」は、私たちの食卓にもよく登場します。これらは一体、「海草」なのでしょうか?それとも「海藻」なのでしょうか? ここに挙げた食品はすべて「海藻」で、私たちがふだん「海草」を食べることはほとんどありません。 |
||||
石垣島の亜熱帯性海草群落(リュウキュウアマモ)/ 河内直子氏撮影 | ||||
現在は海に住むクジラは、もともとは陸に住むカバに近い動物だったそうです。またジュゴンやマナティはゾウに近い動物でした。陸上の生物は海から陸に進出した生物の子孫ですが、一部は新たな生育場所をもとめて、海に帰りました。「海藻」の一部が進化して、陸上植物になりましたが、さらにその一部が、ちょうど動物におけるクジラのように、海に帰りました。これが「海草」です。 多くの「海藻」が岩礁に体の一部を固着させて分布します。それに対して、ほとんどの「海草」は、「海藻」が生育しにくい不安定な砂地に地下茎を竹や芝のように張り巡らせることによって砂を安定させ、分布することができるのです。 |
||||
リュウキュウスガモ Thalassia hemprichii |
リュウキュウアマモ Cymodocea serrulata |
ベニアマモ Cymodocea rotundata |
||||
地下部がしっかりしていて、陣地を確保するのが得意な種です。沖縄では分布面積・重量とも最も大きい種です。 | 水平な地下茎から上方にのびる部位(垂直地下茎)の節が長く、他種より上方に速く育つことができます。埋没や弱光に強い種です。 | 干潮時には干出してしまうような場所でも、垂直地下茎が短いため、砂に葉を横たえて生き延びることができます。このため、ベニアマモは近縁のリュウキュウアマモよりも浅いところに分布する傾向があります。 | ||||
---------- イラストは当真(1999)に一部加筆。---------- |
世界中に約50種の「海草」が分布しています。熱帯の海草の特徴のひとつに、多くの種が狭い範囲に混ざりあって分布することがあげられます。温帯や寒帯では数平方キロメートルの範囲にひとつの種しか分
布していないことがよくあります。しかし熱帯では、手の届く範囲に6種類の海草を観察することもできます。 一般に同じような資源を利用する複数の種は共存することが難しいと考えられています。それは、もし環境が安定していたら、競争に強い種が分布を拡大してしまい、ほかの種が分布できなくなってしまうからです。 強い種の勢力拡大を抑える要因には、ストレスと攪乱とがあります。ストレスとは、資源(光、栄養塩など)が充分に供給されないことにより植物の生長が阻害されることを指します。また、攪乱とは植物体の一部または全体に損害を与えるような外力です。このストレスと攪乱が強いと、それに耐えうる種しか生き残れなくなってしまいます。 カリフォルニア大学のコンネル教授は、サンゴ礁に分布するサンゴの種数と台風による攪乱の強さを比較して、中程度の攪乱が起こる場所でサンゴの種数がもっとも大きくなることを明らかにしました。ストレスに関しても同様に中程度で種数が大きくなると考えられています。 |
||||
石垣島周辺海域では9種類もの海草が生息しています。(図は名蔵湾の調査結果) | ||||
攪乱やストレスには、いろいろな種類があり、それによりもたらされる害や、海草の対抗手段も様々です。海草は基本構造はほとんど同じですが、サイズ・形態などが異なります。太平洋の熱帯域に分布するもっとも大きい種は、葉の長さが 1 m を越えるものもありますが、小さいものは 2〜3 cm しかありません。 | ||||
【右】ウミショウブ・Enhalus acoroides 高さが 1 m に達するので、砂に埋もれたり、光が弱かったりする環境 (深い・濁りが多い)でも、生き残ることができます。 |
|
【下】ウミヒルモ・Halophila ovalis 高さが数 cm しかなく、サイズが小さくて横方向への生長が速いので、空白地ができると最初に 進出することができます。 |
|
---------- イラストは当真(1999)に一部加筆。---------- |
1. 干上がる | ||||
潮位は毎日、また季節によっても変化し、地点に応じて干上がる時間も異なります。干上がると、主に乾燥によって、海草は光合成ができなくなってしまいます。こんな時には、水分を含んだ地面に寝転がってしまうのが有効です。何枚もの葉が折り重なることによって、たまたま上になった葉は枯れてしまっても、下の葉は生き延びることができる可能性があります。また葉が大きい(長い)と地面との間に隙間ができやすいので、新しく生えてくる葉のサイズを小型化させることができる種も干出のストレスには強いのです。 | ||||
2. 土砂に埋没する | ||||
大量の土砂によって海草が埋没するような場合、1 m を越える長い葉を持つ種や、上方への生長速度が大きい種類は生き残ることができます。埋没が赤土の流出のように大規模でない場合、たとえば、小型の動物の活動によって形成された砂山の下敷きになるなどして競争に強い種が減少すると、生長の早い小さな種から順に空き地に進出する様子を観察することができます。急にできた空き地に対しては、普段はあまり目立たないけど、小型であるためにコストを抑えて横方向に素早く生長できる種が活躍できるのです。 | ||||
3. 十分な光が得られない | ||||
海では、たった数10 cm 水深が増しただけでも、光条件が急速に悪くなります。また、にごりが多いところでは、この傾向は拡大されます。ここでも、1 m を越える長い葉を持つことや、上方への生長速度が大きいことは、有利に働きます。しっかりした地下部(地下茎や根)を持つことは、光に困らない環境では、自分の陣地を確保できるために有利に働きますが、十分な光がえられない環境では、葉の生産を食いつぶしてしまうので、反対に不利になってしまうのです。 | ||||
ちょっと見ただけでは、どの海草にも大差はみとめられないかもしれません。しかしながら少し注意して観察すると、それぞれに少しずつ異なる個性を見つけることができます。熱帯海草群落の多種の共存は、環境とそれに対応する海草各種の適応方法(得意わざ)とのバランスの上に成り立っていると考えられます。 | ||||
人類の食用にはならない海草も、ジュゴンにとってはごちそうです。 | ||||
(海洋研究所発行の報告書 (Koike, 1999) の表紙より転載。中村いくお氏撮影) | ||||
2002年7月20日 海の日公開行事より 田中 義幸(21世紀COE特任研究員) |
||||
● | Bjork M., Uku J., Weil A. & Beer S. (1999): Marine Ecology Progress Series, 191: 121-126. | |||
● | Duarte C.M., Terrados J., Agawin N.S.R., Fortes M.D., Bach S. & Kenworthy W. J. (1997): Marine Ecology Progress Series, 147: 285-294. | |||
● | Koike I. (ed.) (1999): Effects of grazing and disturbance by dugongs and turtles on tropical seagrass ecosystems. 281p. Ocean Research Institute, The University of Tokyo. | |||
● | Terrados J., Duarte C.M., Fortes M.D., Borum,J., Agawin N.S.R., Bach S., Thampanya U., Kamp-Nielsen L., Kenworthy W. J., Geertz-Hansen O. & Vermaat J. (1998): Estuarine, Coastal and Shelf Science, 46: 757-768. | |||
● | 当真 武 (1999): 沖縄生物学会誌 37:75-92. | |||
● | 鷲谷 いずみ・矢原 徹一 (1996):「保全生態学入門 遺伝子から景観まで」文一総合出版. | |||
All Rights Reserved, Copyright 2002-04 Toshihiro Miyajima, Atmosphere and Ocean Research Institute, The University of Tokyo Last modified: 9 April 2004 |