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窒素ガスと亜酸化窒素の窒素安定同位体比
 海水中の溶存窒素ガスの安定同位体比は、大気窒素との溶解平衡に規定され、ほぼ +0.5‰ の値を取る。しかし OMZ の脱窒活性の高い海水中では、脱窒による同位体比の低い窒素ガスの生産のために、δ15N は +0.2‰ 程度まで下がることがある(前ページの図5参照)。
 亜酸化窒素は硝化の過程で副産物として生成する。また脱窒の過程の中間産物であるが、海洋では多くの場合、脱窒は亜酸化窒素を消費しており、脱窒活性の高い海域では同位体効果により亜酸化窒素の δ15N が顕著に高まっている(図7)[1]。硝化に伴って生成する亜酸化窒素の同位体比は基質のアンモニアに比べて数十‰ も高くなることがあり、同位体比の軽い亜酸化窒素を硝化に対するマーカーとして利用できる可能性がある。しかし海洋の溶存 N2O は平均的に見ると陸域起源の N2O に比べて高い δ15N を持つ [2]。
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溶存態有機物の窒素安定同位体比
 溶存態有機窒素(DON)は、海洋中で硝酸についでストックの大きな窒素画分であるが、生物活動によって生産されるため、表層水で濃度が高く、中層・深層ではやや低くなる。溶存態無機窒素や無機塩類からの分離が技術的に困難であるため、DON 全体としての信頼できる窒素安定同位体比は得られていない。これに対して、溶存有機物の中でも比較的高分子量(おおよそ 1,000 Da 以上)の画分は限外濾過法により無機物から容易に分離できるため、この画分(HMW-DON)の δ15N は数多く測定されている [3]。
 HMW-DON は本来は生物生産に伴って生成されるものであるため、その同位体比の変動傾向は、次に述べる懸濁態有機窒素(PON)の同位体比と相関しているが、変動幅は概して PON よりもかなり狭い。これは、DON の中には難分解性で非常に寿命の長い成分が相当の比率で含まれており、この成分の同位体比(海洋全体でほぼ一定と推定される)が生物生産に伴う短期的な δ15N 値のシグナルを緩和してしまうためであると考えられる。
[1] Naqvi, S.W.A. et al.: Nature, 394: 462 (1998); Dore, J.E. et al.: Nature, 396: 63 (1998).
[2] Dore, J.E. et al.: Nature, 396: 63 (1998); Toyoda, S. et al.: Geophys. Res. Lett. 29, doi: 10.1029/2001GL014311 (2002).
[3] Benner, R. et al.: Mar. Chem. 57: 243 (1997); Guo, L. et al.: Mar. Ecol. Prog. Ser. 252: 51 (2003).

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Toshihiro Miyajima, Atmosphere and Ocean Research Institute, The University of Tokyo
Last modified: 1 June 2004